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2011.8.1 フジサンケイビジネスアイ「inovations-i」コラム寄稿
7月中旬、関東にある3つの人気観光スポットを訪ねた。震災直後、自粛ムードや風評被害から、各地で観光客が激減した。それは、東京ディズニーランド(以下、TDL)も例外ではなく、世界遺産「日光東照宮」や浅草「スカイツリー」からも人の姿が消えた。
これはリーマンショックの比ではない。震災後、一カ月の休園を余儀なくされたTDLは、7月8日、ついに1983年開業以来初めて、こども料金の半額値下げに踏み切った。
7月中旬、早めの夏季休暇で、TDL、日光東照宮、鬼怒川温泉、浅草スカイツリーを巡ってきた。震災後4カ月、それぞれのスポットで透けて見えた「未来」。震災の前と後、求められる「顧客満足」「差別化」はどう変化するだろう。それは、まるで再生と衰退の分かれ道のように見えた。
7月14日、とある懸賞に当たり、TDLに出かけることになった。懸賞はディズニーシーのホテルミラコスタの宿泊券と園内ディナーのペア招待券がセットになっていた。チケットだけなら、誰かに譲ったと思うが、ディズニーシーに行くのは初めて、震災後のTDLにも興味もあった。
舞浜からディズニー専用のモノレール「リゾートライン」に乗り換え、10分ほどでディズニーシー・ステーションに下り立つと、ホームにはホテル直結の出口があり、ホテルへ続く回廊からは、本物かと錯覚するほど再現性の高いイタリアの街並みが見えた。
実際は、その壁はディズニーホテル「ミラコスタ」の外観で、外からはトスカーナに見えたが、園内に入ると海に面したベニスの街並みになっていた。扉を開くと、別の世界が待っている。まるで舞台装置みたいだ。
ディナーの際、桃のスープにシロップをかけるスタッフが「では、これから魔法をかけます」と言った。ほかで言われたら、何それと引き攣り笑いになるところだが、ここではゲストも一緒になって、その魔法を楽しもうとする。
ディズニーのコンセプトは「夢がかなう場所」。その世界を徹底して創り上げる。スタッフはウェイトレスではなく、夢舞台のアクターの一人で、自分の役割を演じる。ゲストは、夢の世界の物語の中に入っていく。
以前はアトラクション中心、こども向けという印象があったが、シーは大人も楽しめる。ヴェニスやフィレンツェを模した街並みは、実際に旅した時のことを彷彿とさせる。東京から30分で、海外のリゾートに行くのと同じくらいのくつろぎが得られる場所。
帰る日に、帰りたくない。もう一度来たい、今日もう一度行きたいと思わせる観光地や店はいくつあるだろうか。
震災後の来園者減少に対し、値引きチケットで、どの程度客足が戻ってきているのか。平日木曜日の昼間はかなりゆったりして、確かに空いている感があった。しかし、ディナーの後、この夏投入された最新アトラクションを見ようと再び園内に出た時、そこは交通整理が出るほどの人で溢れていた。
いったい何がと目を疑うほどの人ごみ。それは、この夏のもう一つのお得チケット「夏5パスポート」を利用して来園した人たちだった。たくさんの電飾を使うアトラクションは、LEDを使う節電型に変えられ、意識の高い首都圏の消費者へのアピールも効いていた。夜になり、家族連れ、カップルの数が倍増していた。
この夏の電力不足で、節電のためサマータイムを導入する企業も多い。ある調査によれば、20~50代の父親に、この夏「アフター4」をどんなふうに過ごしたいかを聞いたところ、一番人気がディズニーの「夏5パスポート(43.6%)」だったという。
TDLは「こども半額」を単なる値引きではなく、震災後の子どもたちに笑顔をプレゼントする「キッズスマイルキャンペーン」と謳った。苦し紛れの言い訳にもとれるが、震災後、値引きしてそれなりのものを提供するプランが多い中で、子どもを笑顔にするためというスローガンは、沈みがちな気持ちを鼓舞し、スタッフのモチベーションをどれだけ高めただろうか。
震災前は単なる値引き、安売りでも利益が出た。しかし、震災後、単なる値引きだけで、人は呼べない。単なる値下げは、ブランドを毀損するだけでなく、収益に致命的なダメージを与えかねない。
経営を優先し、客が二番に来る経営に明日はない。TDLと同じことはできないかもしれない。しかし、TDLと同じ気持ちを持つことはできる。
かつては箱根や熱海と並び「東京の奥座敷」とも呼ばれた鬼怒川温泉。だが、団体客を見込んだ旧来型の大型ホテルが多く、施設も古い。宿泊客数は、平成16年に200万人を割って以降減少が続き、平成19年には173万人へと落ち込んでいる。
震災による影響もあると思うが、まちには活気がなく、全体に廃れている印象があった。宿の外に出ても、鬼の階段以外、見るものもない。ここでの一番の楽しみは、今や鬼怒川観光の看板となった渓谷の「ライン下り」だ。まちでは人の姿を見なかったが、ライン下りの乗り場は人であふれていた。はとバスの姿もあった。
ライン下りの楽しさは、ディズニーに通じるものがある。単に船に乗って、川を下るだけではない楽しさがそこにはある。渓谷の美しさはもちろん、手を伸ばせば、川の水に触れることもできる。20人くらいが乗る小さな和船を手でこぐ。船頭さんのしゃべりも笑いや歓声を誘う。
何より、このアトラクションの楽しさになっているのが、流れの中で、水除けのビニールをみんなで引き上げるというイベントだ。流れがきつい場所にくると、「さあ、ビニールを上げて」と船頭さんが声を上げ、みんなでビニールを引き上げる作業に参加させられる。最初はちょっと面倒くさいと思うが、その面倒くさい作業が途中から楽しさに変わる。
遊園地では、それをわざわざ仕掛けで作るが、ここはそれを意図したものか、偶然の産物か。いずれにしても、客に水がかからないよう囲いをするのでなく、客にビニールを持たせることで、臨場感のある川下りの楽しさを味あわさせる。日本の観光地では、極めて珍しい。
もう一つ、人とのふれあいもこのイベントの魅力だろう。川を下る間、そこにはウオータースポーツを楽しむ人やつり橋から渓谷を眺める人たちなどがいて、船に向かって手を振ってくれる。たまにサルも出てきて、みんなでどこどこと探し、見つけては歓声が上がった。
地域資源の活かし方の良いお手本はある。あとは、これを全体に活かせない連携の問題だろうか。
短く日光について触れておきたい。震災後、原発の風評被害で、観光客が激減した日光。震災後4カ月、少なくとも日光東照宮においては、十分な賑わいが見られた。一方、食堂や土産物店は閑散としていた。唯一、駅前から出発する世界遺産を巡るバス乗り場は賑わっていたものの、まちを歩く人の姿はほとんど見なかった。
ただ、私が気になったのはもっと別のことだった。それは日光のホスピタリティ。駅の観光案内所、日光東照宮、まちの中で、客を流れ作業的に「さばく」印象がぬぐえなかった。世界遺産やパワースポットとしての注目度がアップし、たくさんの人が訪れるようになったが、日光観光は、旧来の「団体買い物観光」を引きずったまま、今求められる観光に進化できていない感じがする。
東照宮でもっとも印象に残ったのは、世界遺産の素晴らしさではなく、見事なまでのスタッフの土産物販売トークだった。日光の顧客期待度と知覚品質のギャップを感じたのは、私だけだろうか。日光にもう一度行きたいかと聞かれたら、今のところ、お礼参りにならと答えるしかない。それは残念なことだと思う。
震災前、スカイツリーで沸いていた浅草も、震災後外国人観光客が激減。人の姿が消え、仲見世でも閑古鳥が鳴いていた。夏休み前の三連休、日曜日の浅草は依然と変わらない活気を取り戻していた。スカイツリーの人気だろうか。浅草寺も仲見世も人であふれ、昼時の食堂の前には一斉に行列ができていた。水上バス乗り場の行列には、多くの外国人の姿も見られた。
浅草の楽しさは、成熟した観光地であることに尽きる。一つは、首都東京で、日本を代表する観光地として、国内外の観光客に浅草という価値を提供し続けている。その観光地としての完成度は極めて高く、海外の有名観光地にひけをとらない。
浅草の魅力は、日本的であると同時にオープンなところ。仲見世には扉がない。また、左右を行き来して買い物を楽しめる狭い道幅。そこに商品の遊び心と多様性、値ごろ感が加わる。また、店員の積極的な声かけ「掛け声」の活気。これらが浅草のお祭り気分を盛り上げる。気軽に手に取り試せる。そうした人や物とのふれあいやライブ感は、人の感情に働きかけ、その高揚感は記憶に残る。
価値や満足は「モノ」ではないものに移り変わっている。今、求められているのは何か。それがわかっているかどうかは、再生と衰退の分かれ道になる。
参考リンク
恋するまち・商店街~地域活性化・まちづくりコンサルタントの全国漫遊記
http://machitabi.blog89.fc2.com/

コラム「地域発!こだわり企業が全国区になる 顧客満足と差別化のポイント(全10回)」は、2011年6~8月、フジサンケイビジネスアイ「イノベーションズアイ」に寄稿したものです。
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巨大市場ヘ最短ルート
○3.11震災後の人気観光スポット見る、顧客満足と盛衰の分かれ道
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